前川清とクールファイブ

カラオケなら、10曲ぐらいはレパートリーに入っている。普通に歌うこともできるし、ボーカルを大げさに歌って笑いを取ることもできるし、誰かが歌いたいと言えばバックコーラスも完璧にできる。そう「内山田洋とクールファイブ」。しかし『長崎は今日も雨だった』を初めて聴いてから50年、生歌を聴いたことはなかった。

9月26日(木)午後、東新宿の新宿文化センターに近づくと、それまでとは周囲の風景、いや空気が一変する。去年還暦を超えた私が場違いな若造だと感じてしまうほどの高齢化地域と化していた。みんな場離れしていて、なんとなく居心地が悪い(まあ他の人が見れば、実は溶け込んでいたかも)。ほとんどが熟女の二人三人連れだが、“アベック”や男同士の二人組もいる。ステッキ所持率は推定38%。ロビーの椅子は満席状態。

座席は8割がた埋まっていた。歩くのもやっとというご婦人が、お化粧して花柄のワンピースを着てペンライトを持って座席を探している。「田中さん、こっちこっち!」・・・・前席の方はファンクラブ会員なのだろうか、互いに再会(無事)を喜び、近況を語り合う。通路を行きかう係員が「携帯電話の電源を切るように」「録音禁止」というプラカードを持って巡回している。

そう、行ってきました「前川清とクールファイブ」。

 

14時半、前川清登場。ブルーの細身のスーツにネクタイ。直立不動で歌うスタイルは変わらない。最初はソロ。マイクを持つ右手はともかく、左手も体の横で微動だにしない。そして丁寧なお辞儀。体型も昔以上に締まっている印象だ。しっかりトレーニングをしているのだという。

2曲目はイントロで分かった。『花の時・愛の時』、ああやっぱり生はいいなあ。声もしっかり出ている。そうかそうか、サビの前は抑えて歌うのだな。参考にしよう。

そしていよいよ白のスーツに身を包んだ「クールファイブ」が登場します、と前川がMC。最初は『噂の女』、いきなり来た~! メンバーは体を左右に動かしてリズムを取っているが、前川はやっぱり直立不動だ。左手は動かないが、行き場がないという感じではなく、しっかり体の横に収まっている。“うわさぁ~あ~あ~あ~のおんな~”。うわ、生噂だ。当たり前だけど、うまいなあ。クールファイブのコーラスもいいじゃないか。続いてこれもイントロの最初の一音で分かった『東京砂漠』、もう感動の嵐。気づいたらなきながら一緒に歌っていた。

 

曲間、クールファイブのメンバーとのおしゃべりは例によって「年寄り談義」。「最近声が出なくなった」という前川に「いや、昔より出てる。一時ひどかったもん」と容赦ない返し。その“昔”というのがいつかわからない。コンサートツアーはクールファイブが一緒の時もあれば、ソロの時もあるようで、「この前さ、鹿児島行ったよね」「え?」「あれ、鹿児島一緒じゃなかったっけ、ほら霧島」「霧島は宮崎でしょ?」「え、鹿児島だよ、ねえ?」と、かみ合わない会話がおかしい。

クールファイブとワンコーラスだけ5曲のメドレー、ソロで坂本龍一作『雪列車』、福山雅治作『ひまわり』を歌って一部終了。15分の休憩。

 

2曲目は前川が本来好きな路線、オールウェイズ。打って変わってグリーン・ストライプのジャケットにジーンズ、スニーカーという衣装。手拍子をもらって『デイドリームビリーバー』を軽快に歌った後、「家族を紹介」。細身の長男・前川紘毅と貫禄ある次女・前川侑那登場。ひとしきり昔話(長女がいちばん強かったらしい)をした後、各自一曲ずつ。次女が所属するロックグループがメジャーデビューしたというが、前川曰く「何と言っているのかいまだによくわからない」。客席もどう反応していいかわからない感じ。

 

子供たちが歌っている間に、華やかなピンクのスーツに着替えた前川。「これから後半です。いつものように、カメラもOK。私が客席に降りていきます。では『長崎は今日も雨だった』から」。

ええ~、そうなの? クールファイブもブルーのジャケットで再登場。あわてて電源オンにする。

 

ここからが圧巻だった。

『逢わずに愛して』『中の島ブルース』『そして、神戸』とヒット曲のフルコーラスメドレー。前川は客席内でときにプレゼントなど受け取りながら、握手攻めにあっている。ツーショットの記念撮影攻めにも応じてVサインなんかを出しながら、それでもちゃんと歌っている。その間ステージに残っているクールファイブは、ずっとコーラスをしているのだが、心あるファンが、そちらにも声をかけたりプレゼントを渡したり。まさにファンミーティング状態、欲を言えば1曲ぐらい、きちんとステージ上で歌う姿を見たかったなあ。

と、思ったらステージに戻って最後の曲『昔があるから』。うーん、この選曲はしぶい。癖になりそうなライブだ。